敢えて一度解禁したストリーミングから撤退すること

こういう判断もありか。

正直、ストリーミングというサービスは、メジャーからマイナーまでありとあらゆる音楽が同一線上に並ぶ形ではありますし、マイナーであってもうまくバズれば一気に認知を上げられるチャンスは、過去の既存メディア頼りの状況よりずっと高いとは思います。
ただ、実際にはCDというパッケージ以上に「知名度の有無」で再生数=収入に大きく差が出てしまうサービスでもあると思っています。

たとえばストリーミングに楽曲を解禁していない大物のうちの1組であるB'z、もちろんどの形態でどれだけの割合の金額を受け取っているのかわかりませんから断言はできませんが、「ultra soul」等の超有名曲の場合、前回のベスト盤のリリースから6年経った今、収録されたCDの新品がどれだけ新たに売れているのかということを想像すれば、恐らくストリーミングに出した方がずっと稼げるのではないかと思います。
「ふと聴きたくなるという人が多い」「プレイリストに乗りやすい」等々、「既に知られている」ことによって得られるゲインはとてつもなく大きいはずです。

The Beatlesの場合では、ダウンロード配信開始がiTunes開始から7年後の2010年。一方ストリーミングで解禁されたのは2015年。Spotifyのアメリカでのサービスインが2011年、Apple Musicは2013年ですから、ストリーミングのリリース判断はダウンロードと比較して格段に早いのですが、ほぼ持ち歌全曲が「既に知られている」彼らの場合、「新たなユーザーがパッケージやアルバムデータを購入する」ことに期待するよりも、ストリーミングならではの聴かれ方に乗る方がビジネスとして得られるところが大きいと早々に判断したと推測できます。

しかし逆にそこまでメジャーでない多くのミュージシャンは、自分たちができる範囲でどれだけプロモーションしたところで、ストリーミングであっても自分たちを元々知っている人以外にはなかなかリーチしにくく、再生数は大物の「既に知られている」曲が何となくストリーミングで聴かれるその総数の足元にも及ばなかったりするわけで。
ストリーミングの再生回数に応じた収益は当然CDの収益に比べたら微々たるものですし、だとしたらこういう判断もありなのではないかなあ、と。

前々から言っている通り、ストリーミング解禁しないということは、ストリーミング・サービスへの課金が音楽にかけるお金の全てという若いリスナーにとっては「存在しない」のと同じです。
もちろんそれは長期的にはミュージシャンにとって、新たなリスナーを獲得するという点において確実に大きなリスクになります。
が、お店と同じで現状の運転資金も厳しいというような状況下で長期的なことだけ考えていたってお腹が膨れるわけでもなく、今日明日の生活すらおぼつかなくなってしまう。
彼らだってニコニコ笑いながらこういう判断をしたわけではなく、相当に苦渋の決断であったことは文面からも伝わってきます。

とりあえず、自分の出している音が正しいと思い、これからも続けようというのであれば、何したっていいのです。カッコ悪くても這いつくばっても、ステージでしゃんと立って鳴らせばいいのです。
実際彼らのことは文字列としての認知しかなかったのですが、こちらは継続するというYouTubeで聴いてみたら、これ結構カッコいいじゃないか。こういうニュースでの出会いだって、あっていい。というか、もっとあれ。