音楽・映像の「所有」と「使用」のこと

新井浩文容疑者の逮捕に業界パニック 映画2本お蔵入りも

大変なことになっていますが、今のところAmazon Primeやhulu、Netflix等で過去の彼の出演作品まで止まったということはないようです。事件の内容的に「愛の渦」とかヤバいっちゃヤバいんですが、このせいでこの作品の門脇麦さんが観られなくなるとなったらそれはやるせない。
ただ、これ各社がそう判断すればいつでも視聴停止することができるという点が、過去のメディアとの最大の差だと思うわけです。

DVDを購入した場合、その後どんなことがあって販売中止になろうとも、今所有している盤を誰かが取り返しに来るようなことはありません。自分は、DVDは廃版以外の理由で入手できなくなったものは所有していませんが、CDでは、コーランを無断使用してイスラム団体から怒られて修正になった曲が入っているBUCK-TICKのアルバム「Six/Nine」初回盤とか、中島みゆきのパクりの件で販売停止になって以来、その該当曲以外のアルバム収録曲も、のちにリリースされたベストアルバムに一部が収録された以外封印されてしまったHighway61のアルバムが今も家にあったりします。
怒られたヴァージョンもパクった曲も今も聴き放題です。

が、サブスクで聴きがちな昨今、制作者や配給者が何らかの意図でもって公開を停止すれば、それはもう未来永劫聴くことができなくなってしまいます。
私も随分サブスクに流れるようになりましたが、「これぞ」と思う盤は確実にCDで入手しようと思うのは、そういうところが引っかかるからでもあります。

そもそもCDやDVDは「所有」するものではありますが、レコード会社・映画会社としてはCDやDVDは「使用権」を売っているだけで、その音楽や映画の所有権を移転するものではない、という体です。
だから購入した個人が勝手に複製して配布したり公衆に向けてアップロードすると容赦なく捕まりますが、それ未満の個人的な複製等は、家庭にステレオ・カセットデッキが普及して以降激増したものの、さすがに取り締まられることもなく、グレーゾーンとして黙認されてきたわけです。
レコード会社の方が「買ったCDを車で聴きたいのであればコピーするのではなく車用にもう1枚CDを買うのが筋」みたいなことを書いていたのを読んだ時には、さすがにそれはどうなの、と思いましたが、その立場としては厳密に言えばそういうことだったわけです。

それが、サブスクリプションがメインになり、有形のメディアを介さなくなり、かつデータとしてローカルに保存することもなくなったことで、ようやく「体」ではなく実際に所有と使用との間のブレがなくなり、純粋に「『使用権』を売っているだけ」の状態が実現したのが今、ということになります。
だから本当は今の状況って制作・配給側からすれば願ったり叶ったりの状態なはずなのに、特に音楽側の人はあんまりいい顔していなくて、いまだにサブスク解禁しないミュージシャンも多数いるのはどうしたことだ、という話です。

いや、わかってるんですけど。そもそも欧米から来てしまったスタイルに抗いきれなくなったことが流れとしてはありますが、「聴き放題」型ではなく1曲1曲にストリーミングを課金によって許可するような形では、YouTubeやテレビ・ラジオで流されるのと同等のブツを有料にするということになりますので、恐らくそれやったら商売になってなかったと思います。

こういう世の中になった結果、受け手側は定額で聴き放題観放題というメリットを得た代わりに「視聴できなくなるかもしれない」リスクを負い、送り手側は制作した著作物の権利を思い通りにコントロールできるようになった代わりに盤のような率の高い利益を得られなくなったということですね、という、書きたいこと適当に書いた後に取って付けたようなまとめをして終わり。