第69回紅白歌合戦を見返したこと

今日は紅白歌合戦を見返していました。
今回の紅白は「音楽ショー」として見た場合、少なくとも過去10年では最強だったのではないかと思います。とにかく楽しく視聴できました。
ぼけっと見ながら、何でそう見えたのか3点ほどその理由を思いついてみました。

1)「バズり」の応用
今現在、NHKはSNSでのバズりを最もうまくコントロールできている企業体のひとつであることは間違いないと思います。企業って呼んじゃいけないけど。
「チコちゃん」は土曜の朝ドラの次に再放送だったからという編成上の理由はあるにしても、その位置は狙ったようにしか思えませんし、筋肉体操なんかあれは完全に「ネットでバズらせるため」だけの番組と言っても過言ではありません。

そしてバズったそれらをきちんきちんと要所に配置し、利用し、紅白としてのバズに繋げていく。天童よしみの時の「ダンサー+大漁旗+筋肉体操+サックス+カーリング娘」のカオスは、番組内でも「コンセプトの渋滞」と評されましたが、当然そうなることを想定してあの場を設定したわけで、結果「何かわかんねえけど盛り上がる」空気感を作り上げることになったのではないかと思います。


2)「フェス」感の創出
今回は番組通しての「お祭り」感がハンパなかったわけですが、その方針は歌唱曲意発表の時点でアッパーな曲が他の年以上に多く並んでいたことからも想像できました。
が、実際見てみるとそれ以上の高揚感で、それは今回の制作陣が「番組としてかっちり作り込むことよりとにかく会場を盛り上げる」ことに腐心したからではないかと思いました。

いきものがかりの「立って!」、ユーミンの「歌ってください」+会場への歌詞表示、ゆずのオフマイク歌唱、サザンの執拗なコール&レスポンス。およそ従前のテレビ番組制作的には当てはまらない、まず会場を盛り上げようという動き。しかしそれで得られたライブ感はやたらとテレビのこっち側にも伝わってくる。
「フェス」のような空気を会場に作り出し、その空気感を放送しようとしたのではないか、と思いました。そしてそれは相当に成功したのではないかと。
前半の、ウッチャンのやたらと演者に絡んでいくスタイルはAP BANKフェスの桜井さんのようだった、というのは言い過ぎ。


3)歌への回帰
これは2)の前提になるものかもしれませんが、今回は出場歌手の数は史上最少規模、なのに、歌以外に多くの時間を取った所謂「企画」はありませんでした。
キッズコーナーは歌をつなぎ続け、「チコちゃん」はあくまでも幕間の余興レベル、「おげんさん」は結局歌でしたし、曲前に流されるドキュメント的な映像も過去よりは相当減りました。
その分出場歌手一人当たりの時間は相当に長くなり、個々の歌手のパーソナルをできるだけ印象付けられたのではないか、そして音楽ショーとしての「うねり」のようなものを生めたと思います。少なくとも過去の「ヒット曲がベルトコンベアに乗ってただ次々運び出されてくる」ような演出は皆無で。

これはすべて2)の空気感を出すため、「音楽のお祭り」感を出すには必須の構造だったのではないかと思います。MISIAが事前には公表されていなかった「包み込むように」を披露した時がその象徴とも言えます。


最後の桑田さん+ユーミン+サブちゃんの絡みは、腰の動きに上層部からクレームが付かない限り、紅白きっての名シーンとして語り継がれるでしょうし、バンドで演奏される際にはクレジットまで食い入るように見てしまい、結果日本ポップスの歴史のようなメンバーが続々と出演していることがわかってビビるわけです。
鍵盤弾きなんて、日本ポップス史上最も重要な3人と言ってもいい、笹路、武部、松任谷が揃っているわけで。本当に「いいものを見た」と思える瞬間が多くありました。


ただ、課題もあります。
広瀬すずが正直隙がありすぎなのと、スイッチャーさんが時々やらかして、誰もいない場をけっこう何回も映していたこと。
氷川きよしと西野カナの演出は毎年割と雑なので、そろそろ怒っていいと思いますが、水森かおりの格下げ感が今回は目につきました。でもあれはつまるところ小林幸子以来の大掛かりなせり上がり型衣装から紅白が遂に卒業したということでもあるので、来年また同じような扱いを受けた時にキれましょう。

そして一番気になったのは、例えば冒頭の3曲は今年のヒット曲ではなく「平成のヒット曲」的な有名曲を立て続けに投下したり、「平成の総括」感はそれなりに出ていたのですが、最終的には「昭和の大勝利じゃねえか」みたいな感じになったことでした。しかし止むを得ない。