配信の個人化とレーベルの役割のこと

Spotify、アーティスト個人が自由に音源を配信&収益化できる新機能のベータ版を開始!

いよいよ、そういう動きが本格的に企業のサービスとして出てきました。

たとえばCHANCE THE RAPPERのすごいところは、こういうサービスの枠組みのないところで、既存の無料サービスを駆使してああいう形で活動をしている点にありますが、考えてみればそれはとても特殊だということはなくて。

YouTubeのサービスインは2005年、Spotifyのアメリカ進出が2011年。彼がティーンだった頃、彼自身の音楽性を拡大するにあたって死ぬほどYouTubeやSpotifyを検索しただろうし、そういうリスナー環境は彼にとってとても自然であり、だから発信する側に回ってもそういう環境から発信される音楽としてリスナーと向き合っていると考えればとても自然です。

ただ、彼には爆発的な才能があったからこそ今の位置まで来れているということも間違いなく、彼ほどじゃないけど音楽で飯を食っていきたいと思っている人がわんさかいる今の状況と、今回のSpotifyの動きを併せて考えるに、果たしてこれは喜ばしいことなのかどうかと考えるとなかなかに微妙なわけで。

間違いなくレーベルの本質は「仲介業」です。市井に蠢いている数多のバンド・ミュージシャンからこれぞというのをフックアップして商品として世に出す。それを受け入れた顧客から対価をいただき、その何割かをアガリとしていただく。
でもそれだけではなく、フックアップしてから商品として出すまでの間に様々なサポート・育成もあるでしょうし、ある程度以上メジャーであったり注目されているレーベルであれば、「そのレーベルからリリースされる」ことがとても大きな意味を持つことになります。
OasisやMy Bloody ValentineがCreationレーベルからリリースされたこと。Sonic Youthが当時所属していたゲフィンに紹介したことからNirvanaもそこからリリースすることになったこと。

セルフ・プロデュースで完全に作り上げられるだけの才能と技術があり、プロモーションもソーシャルを駆使して回していけるだけの人であればいいのですが、そうでないなら、こういう仕組みがあってレーベル所属を回避したが故に本来のポテンシャルを発揮できないまま終わってしまう事例も人知れず増えてしまうのではないか、とも思っていて。
そしてそうなってしまった、でも才能はあるミュージシャンを誰が救済することができるのかと考えたら、もうSpotify以外にいないわけです。

こちら、6月に紹介した対談記事ですが。

音楽業界の“過渡期”、2018年をどう進む? ──鈴木竜馬(unBORDE代表) × 竹中直純(OTOTOY代表)

この2ページの下の方「これからの音楽業界に必要とされるもの」の項で語られている「プラットフォーマーが、お金を、自社のサービス内で囲い込むための音楽家への投資に使いはじめる」ことが、ここでこれから始まるのです、きっと。

このSpotifyのサービスがベータ版からその先に進んだ場合、たとえばお笑い界に関してネットフリックスで起きているような事象が音楽で起きます。各レーベルが1組のミュージシャンやひとつの企画にかけられる限度額を遥かに超える資本を投下できます。そして既存のレーベルにとっての既存の「正解」を逸脱した音楽もきっと登場します。

それはそれで喜ぶべきことでもあるんですが、結果レーベル経由でメジャーになるはずだった人がそっち経由で出てしまったり、対談でも語られていたような、既存の有名ミュージシャンが契約切れの際に他レーベルではなくネット側と契約してしまったり、そうやって既存レーベルはこれから更にどんどん弱くなってしまうのかも、とも思います。

まだ各レーベルやることはあると思うし、今とは違うやり方もできるとは思うですが、ご存じの通り少なくとも日本のメジャーレーベルの特に上の方は、新しい流れには相変わらず全くもって鈍いご様子なので、今度こそヤバいかもしれない。少なくとも日本ほどメジャーレーベルの数がある国ももうないので、それがメガバンクくらい合併するレベルまではありえそう。
つうか、どうやって経営回してるんだろうっていう一応メジャーレーベルありますけど、あれ本当にどうやってんの。